今回の記事では、APIからリリースされたサミングミキサー【ASM164】について紹介いたします。
現代のデジタル中心の音楽制作において、ミックスにアナログ機材特有の暖かさ、パンチ、クリアさ、そして奥行きを加えたいと感じている方は多いはずです。ASM164はDAWの利便性を保ちつつ、本格的なアナログサウンドの恩恵を受けたい方にとって理想的なソリューションとなっています。
API ASM164とは
API(Automated Processes Inc.)が2025年にリリースしたASM164は、同社の伝統的なラージフォーマットコンソール、特に多くのプロフェッショナルに愛される「THE BOX」コンソールのサミングセクションから着想を得て設計された、画期的な16チャンネル・アナログサミングミキサーです。

このASM164は、API独自の2510入力オペアンプと2520出力オペアンプ、そしてカスタム出力トランスフォーマーを惜しみなく搭載しており、「APIサウンド」を、コンパクトな2Uラックマウント形式に凝縮しています。
プロジェクトスタジオやホームスタジオなど、物理的な設置スペースが限られる環境、または本格的なアナログサミングを導入したいと考える方にとって、ASM164は「DAWベースのワークフローの利便性と柔軟性を犠牲にすることなく、アナログコンソールのサウンドを得るための完璧なソリューション」となるでしょう。
ASM164の特徴
まずは、ASM164の非常に実用的な機能性と柔軟な拡張性の中心となる特徴を紹介します。
16の高品質ラインレベル入力チャンネル
各チャンネルには31ステップ式レベルコントロールとセンタークリック付きパンポットを備え、正確な調整と設定の再現性を保証します。

各入力チャンネル、そして二つのステレオバス(Mix-A、Mix-B)それぞれに独立したバランスド・ハードウェアインサートポイントが設けられており、お気に入りのアウトボード機材やパッチベイとのシームレスな統合を可能にします。
「A to B」機能
ASM164の独特の機能としてMix-Aの出力をMix-Bにサミングできる「A to B」機能というものがあります。これにより、ドラムのパラレルコンプレッションのような高度なミキシングテクニックを内部で完結させることも可能になり、ミックスにさらなるパンチと奥行きを加えることができます。

カスケード接続
ASM164の真骨頂は、複数のユニットをカスケード接続できる点にあります。
1台目のMix-B出力を2台目の外部入力に接続することで、32チャンネル、48チャンネル、さらには64チャンネル以上といった大規模なアナログミキシングシステムを、非常に費用対効果の高い方法で構築できるため、スタジオの成長に合わせて柔軟に対応できます。
詳細スペック


チャンネル数:16入力(バランスDB‑25、ステレオペアで8系統)
バス構成:Mix‑A/Mix‑Bの2系統のステレオ出力
インサート:各チャンネル + 2バス(Mix‑A/B)に装備
レベル操作:31ステップ式レベルコントロール、センタークリック付きパンポット
メーター:各チャンネル4セグメントLED/ステレオ出力用アナログVUメーター
回路設計:
- 入力段:API 2510ディスクリートオペアンプ
- 出力段:API 2520オペアンプ+API独自トランスフォーマー
最大レベル:+25 dBu(入出力とも)
周波数特性:20 Hz–40 kHz ±0.5 dB
SN比:−112 dBr、THD+N<0.02%(+4dBu, 1kHz)
電源:専用ACアダプター(30W)
ラックサイズ:19インチ、約2U高、約5.4 kg
ASM164は他のサミングミキサーと比較した場合、バス/チャンネルともにインサートとメーターを標準装備している点では、稀有な存在です。
APIサウンドのDNAを凝縮したアナログサミングミキサー
ASM164は、APIの豊かなアナログハードウェアの歴史と、数々のヒット作品を生み出してきた名機「THE BOX® Console」のサミングセクションを忠実に受け継いでいます。この16チャンネルアナログサミングミキサーは、API独自の2510ディスクリートオペアンプを入力段に、そして2520オペアンプとカスタムトランスフォーマーを出力段にそれぞれ搭載することで、APIの代名詞とも言える「温かさ、パンチ、明瞭さ」という特徴的なサウンドを、コンパクトな19インチラックマウントフォーマットで実現しています。

- 中低域: ASM164を通すことで、中低域にはAPIらしい「パンチ」と「厚み」が際立ち、ベースラインはより大きく、豊かな存在感を持ち、ドラムはパワフルな中域の響きとタイトなスピード感を獲得します。これにより、楽曲全体のグルーブが力強く推進され、リスナーを惹きつけるミックスの基礎を築きます。
- 高域: 高域は透明感を維持しながらも、トランジェントには「明瞭さ」と「煌めき」より一層際立ち、リスニングポジションに近く感じられるようになります。
- ステレオイメージ: ASM164はミックス全体に一貫したまとまりと自然な奥行き感をもたらし、特にステレオ中央の要素がより際立って聴こえます。音像全体の「一体感」が向上し、まるで目の前からベールが剥がれたかのように、各パートの配置や動きが手に取るようにクリアになります。さらに、複数のASM164をカスケード接続してチャンネル数を拡張することで、32、48、64チャンネルといった大規模なミキシングシステムを構築し、この優れたサウンドを多チャンネルで享受することも可能です。
これらのサウンド特性により、ASM164は60年代、70年代のクラシックからインディー、ヒップホップ、エレクトロニックなど、幅広いジャンルにおいて高い親和性を発揮します。単に音をまとめるだけでなく、ミックス全体に「生命感と深み」「生き生きと」聴こえるようになる点が、ASM164の最大の魅力であり、プロフェッショナルな制作環境からプライベートスタジオまで、あらゆる規模のスタジオにAPIの「本物のアナログサミング」をもたらします。
DAWとのシームレスな統合と究極の音質向上を実現する実践ガイド
ASM164導入前に、その潜在能力を最大限に引き出すための主要なポイントを理解しましょう。
DAWとのシームレスな連携を可能にする接続方法
DAW環境下でのASM164の導入は非常に効率的です。
ステムの書き出しと入力: DAWで作成した各トラックやステム(例:ドラム、ベース、ギター、ボーカルなど)をそれぞれ独立したラインレベル・オーディオトラックとして書き出します。
プロフェッショナルな接続: これらの信号は、オーディオインターフェースからバランスTRSまたはプロフェッショナル規格であるDB-25コネクタを介してASM164の16チャンネル入力に接続されます。DB-25は多チャンネルのバランスラインレベルI/Oに広く採用されており、効率的な配線を可能にします。
ルーティングと調整: 各チャンネルには31ステップのレベルコントロールと、センタークリック付きの連続可変パンノブが搭載されており、精密な調整と設定の再現性を保証します。これらのコントロールで音量と定位を細かく設定し、各チャンネルを2系統のステレオバス(Mix-AまたはMix-B)、あるいはその両方へ柔軟にルーティングできます。
DAWへの再録音: サミングされたMix-AおよびMix-Bのステレオ出力(XLR接続)をオーディオインターフェースに戻し、DAW上で最終的なアナログミックスとして再録音します。これにより、DAW内でのデジタルミックスとは一線を画す、APIアナログ回路を通じた「新たなステム」としてサウンドに深みと存在感を与えることができます。また、ASM164はチャンネルレベルコントロールをバイパスし、DAWからの信号をユニティゲインでサミングするグローバル0dBバイパス機能も備えており、DAWでのオートメーションを活かしたワークフローにも対応します。
柔軟なインサートポイントの活用による音作りの深化
各入力チャンネルに加え、Mix-AおよびMix-Bの2系統のステレオバスにも独立したバランスインサートが装備されており、これを活用することが音作りがより自由になります。
チャンネル単位でのダイナミクス・EQ処理: 各チャンネルのインサートを活用することで、ドラムの個別トラックにコンプレッサーを挿入してパンチを加えたり、ボーカルにEQを適用して明瞭度を高めるなど、チャンネルごとに精密なダイナミクスやトーンの調整が可能です。
バス単位での統合的な音作り: Mixバスのインサートは、例えばドラム全体にバスコンプレッサーを適用したり、ボーカルグループに空間系エフェクトをかけたりと、バス単位でより広範なアウトボード処理を行う際に非常に有効です。これにより、DAW上では再現が難しいアナログハードウェア特有の質感をミックス全体に付与し、より粘り強く、豊かなサウンドを実現できます。
多彩なミックス構築を可能にするバス処理
ASM164の2系統のステレオバスは、単なるサミング以上のミキシングを可能にします。
サブミックスと個別処理:
例えば、Mix-Aにドラムとベースといったリズムセクションをルーティングし、Mix-Bに残りの楽器やボーカルをルーティングするといった使い方が可能です。これにより、それぞれに異なるアウトボードプロセッサー(例:Mix-AにAPI 2500+ステレオバスコンプレッサー、Mix-BにAPI 5500デュアルEQなど)をインサートし、各セクションに合わせた独自のサウンドカラーを付与しつつ、全体的な調和を図ることができます。


パラレル・プロセッシング:
ASM164の大きな特長として、Mix-Aの出力をMix-Bの入力にサミングできる「A TO B」機能が挙げられます。これにより、Mix-Aで強くコンプレッションをかけたドラムトラックをMix-Bに送り込み、通常のドラムミックスにブレンドする「パラレル・コンプレッション」を容易に行うことができます。これは、音のパンチと密度を高めながらも、自然なダイナミクスを維持するプロフェッショナルなテクニックです。
チャンネル拡張性:
16チャンネルでは足りない場合でも、複数のASM164ユニットを「カスケード接続」することで、32、48、64チャンネル、あるいはそれ以上の大規模なアナログミキシングシステムを構築することが可能です。これにより、DAWの持つ柔軟性とAPIの伝説的なアナログサウンドを組み合わせた、ハイエンドな制作環境を実現できます。

これらの機能により、ASM164は単に音をまとめるだけでなく、ミックス全体にAPI特有の「深み、パンチ、温かさ、明瞭さ」を与え、各楽器の分離感を高めつつ、全体を「生き生きと」響かせる能力を持っています。特に、中低域には力強い推進力が、高域には耳に痛くない艶やかさが加わり、ミックス全体のまとまりと自然な奥行き感が向上します。ポップス、ロック、ヒップホップ、エレクトロニックなど、幅広いジャンルにおいて、そのサウンド特性は高い相性を発揮し、プロフェッショナルなサウンドの実現を強力にサポートします。
ミックスを次のレベルへ導く活用法と応用テクニック
ここでは、ASM164を最大限に活用し、ミックスに深みと存在感を与えるためのテクニックを簡単に紹介します。
ステムごとのアナログ・カラーリング

ASM164の16チャンネル入力と2系統のステレオバス(Mix-A/Mix-B)は、DAWから送り出す各ステムに意図的なアナログ・カラーを付与し、ミックス全体に有機的なまとまりと奥行きを生み出すことを可能にします。各入力チャンネルには31ステップのレベルコントロールとセンタークリック付きパンノブ、そして個別のインサート(Send/Return)が備わっており、精密な設定と外部アウトボードとの柔軟な連携を実現します。
ドラム・ステム
ドラムの各要素(キック、スネア、ハイハット、タムなど)をDAWからASM164の個別のチャンネルに送り込み、それらをMix-Aバスにルーティングします。Mix-AバスのインサートポイントにAPI 2500+のようなステレオバスコンプレッサーを接続し、強くコンプレッションをかけることで、ドラム全体に強力なパンチとグルーブ感、そして一体感を付与できます。APIのコンプレッションは、しばしば「マジカル」と評されるように、音源に力強い推進力と存在感を与えます。
ベース&キック・ステム
ドラムと同じく個別のチャンネルから入力されたベースとキックをMix-Bバスにルーティングし、Mix-BバスのインサートにEQや別のバスコンプレッサーを接続して、中低域の位相とアタックを最適に調整します。APIの回路を通すことで、低域に力強い推進力が加わり、ミックスの土台がより強固になります。
ギター/ピアノ・ステム
ギターやピアノなどの楽器は、ASM164のチャンネルインサートを介して、EQや軽いテープシミュレーターなどのアウトボード処理を施すことで、DAW上では得にくいアナログ特有の「抜け」や「艶」を加えることができます。これにより、各楽器がミックスの中で自然に際立ち、音楽的なハーモニーを損なうことなく、より豊かな質感を獲得します。
ボーカル・ステム
リードボーカルなどの重要な要素は、ASM164のステレオバスを避け、チャンネル単位でインサート処理を行うことで、より精密な音作りが可能です。例えば、モノラルのEQやコンプレッサーをインサートし、ボーカルをミックスの中心に据える処理を行い、その後Mix-Bにマージすることで、他の楽器とのバランスを保ちつつ、ボーカルの存在感を際立たせることができます。
パラレル・プロセッシング
ASM164の最大の特長の一つは、2系統のステレオバス(Mix-AとMix-B)と「A TO B」機能を活用したパラレル・プロセッシングの容易さです。これにより、圧倒的な奥行きとパンチを両立した、ダイナミックで豊かなミックスを実現できます。
1.まず、基本となるミックスをMix-Bバスで構築します。これは比較的「透明」または「自然」なサウンドにします。
2.次に、強く処理したいステム(例:ドラムやボーカルなど)をMix-Aバスにもルーティングし、Mix-Aバスのインサートにアグレッシブなコンプレッサー(例:API 2500+のハードニー設定やTHRUST®機能を最大限に活用)やサチュレーターなどを接続します。この「アグレッシブ」な信号は、音の塊を形成し、独特の「グリット感」や「サチュレーション」を生み出します。
3.ASM164の「A TO B」スイッチをオンにすると、Mix-Aの出力がMix-Bの入力にサミングされます。
4.Mix-AのOUTPUTレベルコントロールを調整しながら、Mix-AのアグレッシブなサウンドをMix-Bのメインミックスにゆっくりとブレンドしていきます。これにより、ダイナミクスを潰さずに音の密度とパンチを向上させ、ミックスに「生のエネルギー」を注入することができます。APIのサミング回路を通すことで、ミックス全体に「生き生きとした」響きが加わります。
外部入力の有効活用
ASM164は、16チャンネルのライン入力に加えて、バランスステレオの外部入力(EXT IN)を搭載しており、これもMix-AまたはMix-Bにアサイン可能です。この外部入力はユニティゲインで動作するため、ミックス工程の後半で「リバーブのウェット成分」や「ステム外の特殊エフェクト(例:ディレイのフィードバック、空間系シンセパッドなど)」を差し込むのに非常に有効です。
これにより、DAW内での処理では得られない「物理的な音の広がりや奥行き」をミックスに与えることができ、サウンドステージの表現力を格段に進化させられます。特に、外部ハードウェアリバーブやディレイの最終段としてASM164の外部入力を活用することで、それらのエフェクトがミックス全体に自然に馴染み、より豊かな空間表現を実現します。
DAWオートメーションとのシームレスな連携
ASM164自体にはオートメーション機能は搭載されていませんが、DAWからの信号をDAWのオートメーションでコントロールしながら、ASM164の持つAPIの「アナログマジック」を最大限に引き出すことが可能です。
•ASM164には「グローバル0dBチャンネルレベルコントロールバイパス」機能が搭載されています。この機能を有効にすると、ASM164の各チャンネルのレベルコントロールがバイパスされ、DAWから送られてくる信号がユニティゲインでサミングバスに送られます。
•これにより、DAWのオートメーション機能を使って各トラックの音量フェーダーやパン、バスへのルーティングを精密にコントロールしながら、ASM164のアナログ回路を“最終的な音質調整レイヤー”として活用できます。例えば、DAWで作成したミックスのダイナミクス変化に合わせて、DAW上で外部入力の音量フェーダーやバスMuteをオートメーションでコントロールすることで、セッション全体でのダイナミクス変化に柔軟に対応することが可能です。
これらの活用法と応用テクニックを駆使することで、API ASM164は、単なるアナログサミングミキサーの枠を超え、現代のハイブリッド制作環境において、プロフェッショナルなサウンドメイクの可能性を無限に広げる強力なツールとなるでしょう。その「深み、パンチ、温かさ、明瞭さ」は、あなたのミックスを聴く人々に「生き生きとした」印象を与えること間違いありません。
まとめ
アナログミックスの新たな選択肢
API ASM164は、16チャンネル仕様のコンパクトなアナログサミングミキサーでありながら、API伝統のパンチ感、温かさ、明瞭さを余すことなく体現した一台です。
2510 / 2520オペアンプとトランスによるリッチなサウンド、柔軟なMix-A / Mix-Bバス構成、インサート対応、そしてパラレル処理にも対応する「A TO B」機能など、単なる“音をまとめる装置”を超えた高い表現力と実用性を備えています。
加えて、DAWとの親和性を高めるバイパス機能や外部入力、視認性の高いアナログVUなど、ハイブリッド環境に最適なユーザーインターフェースも魅力。
「手軽に導入できるAPIサウンドの入り口を探している」「デジタルだけでは物足りない」「ミックスにもう一段、奥行きと重みが欲しい」
――そんなすべてのクリエイターにとって、ASM164は確かな“答え”となってくれるはずです。
アナログサミングの恩恵をもっと身近に、もっと自由に。
ASM164があなたのミックスに、音楽的な説得力と感情の輪郭をもたらしてくれることでしょう。


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