前回のAPI MC531の記事では基本的なスペックや使い方を中心にご紹介してきました。2本目となる今回の記事では、Electric Tenguで実際に運用したシステム構築のご紹介と、それをベースにしたシステム構築案のご紹介をいたします。
まだMC531がどのような機材かわからないといった方はぜひ1つ前のMC531の紹介記事からご覧ください。
基本構築
まずはElectric Tenguにてテストのために実際に構築したシステムをご紹介いたします。
使用した機材は以下の通りです。
- Main Monitor – Focal Shape Twin (Pair)
- Alt Monitor – Avantone Mixcubes Active (Pair)
- Audio Interface – Prism Sound Titan
- Monitor controller – API MC531
- Laptop – Apple M2 Macbook Air(2023)
- Audio Cables – Mogami 2534
Electric Tenguではホームスタジオでも見られそうな規模のシステムとして、2セットのモニタースピーカーを切り替えるのみの環境を構築しました。
Electric Tenguの環境はミックス、マスタリングがメインでレコーディングをするシーンはギターやベースのオーバーダブを録ったりする程度なので特にMC531のヘッドホンモニター機能は使用しませんでした。
Electric Tenguの環境下でのMC531のメイン用途としては、もちろんスピーカーの切替だったのですが、Bluetoothでリファレンストラックなどの確認に重宝しました。自分のスマホや共同作業者のスマホ、ラップトップとMC531を接続するだけで、作業環境ですぐに確認できるというのは想像以上に快適でした。
小〜中規模プロジェクトスタジオ向け システム案
MC531をシステムに組み込むことでElectric Tenguでも作業効率が上がり、想像以上の快適性を手にいれることができましたが、それと同時にこのMC531の拡張性が最大限に活かされるのはボーカルブースやアンプルームを備えた小〜中規模のプロジェクトスタジオだと強く感じました。
では、ここからは小〜中規模プロジェクトスタジオでどのようなシステム構築と運用をするのが良いかを考えてみましたので、ご紹介いたします。
想定シチュエーション
では、前提となるシチュエーションですが、今回は以下の条件を前提としてみました。
機材
【スピーカー】
・ニア/ミッドフィールドモニター x 1ペア
・ニアフィールドモニター x 1ペア
・サブウーファー x 1
【ヘッドホン】
・モニターヘッドホン x 2本
【インターフェース】
・アナログ8in 8out搭載オーディオインターフェース
【モニターコントローラー】
・MC531
オペレーション
今回想定しているシチュエーションでは、前述の通り小〜中規模のプロジェクトスタジオとなっています。オペレーションとしてはミックス作業とオーバーダブ作業、ボーカル録音の3種類がメインとしており、複数人同時での録音は想定していないプロジェクトスタジオとします。
部屋の構成としてはメインの作業ルームをコントロールルームとし、ボーカルブース兼アンプルームとして別にもう一部屋用意されている2部屋構成とします。
システム図
前述の条件で作成したシステム図をご覧ください。
このシステム図ではコントロールルーム向けのシグナルパスを赤、ブース(演奏者)向けのシグナルパスを青、そして録音される音声のシグナルパスを緑に色分けして表示しています。
では、シグナルパス毎に分けて解説いたします。
コントロールルーム向けシグナルパス(赤)
では初めに、コントロールルームに設置したモニター類へのシグナルパスを見てゆきます。
今回のシステムはソースの切り替えは基本的に行わないため、コントロールルーム向けにはMC531のST1のみを使用しています。クライアントや共同作業者の用意した音源など、外部ソースを接続する場合にはMC531に搭載されているBluetoothやUSBインターフェース、3.5㎜ステレオミニTRS端子を活用を推奨します。
通常はリファレンスのトラックはあらかじめメインの作業PCなどに用意していることが多いと思いますが、クライアントによっては外部ソースを接続したいと希望するケースもあるかと思います。そういった場合にはMC531のBluetooth、USB、3.5mmステレオミニ端子を活用することで、スムーズに目的を達成できます。
音質を音質を優先する場合にはUSBを使用、簡便性を優先する場合にはBluetooth、3.5mmステレオミニ端子を選択すると良いでしょう。
ブース(演奏者)向けシグナルパス(青)
次にブース用モニターのシグナルパスを解説します。
ブースモニターはST2とST3を活用し、個々に異なるモニターミックスを送れるように接続をしました。
個別のモニターミックスを作るためにDAW上でBooth Monitor Outを2系統用意し、それぞれをオーディオインターフェースのOutput3-4、Output5-6にアサインし、各トラックのSendを使用してそれぞれのヘッドホンモニターに専用のモニターミックスを作れるようにしました。この時、SendはPrefaderに設定することでコントロールルームで聴いているメインミックスに影響されない状態でヘッドホンミックスを作ることができます。
実際にヘッドホンミックスを送るにはMC531のCue機能を使用します。
モニターミックス1を送る場合にはCueをST2に設定、モニターミックス2を送る場合にはCueをST3に変更します。(Cueは1つしか設定できないため、ヘッドホンミックス2種類を同時に使用することはできません。)
メインミックスを確認してもらいたい時にはヘッドホンモニタースイッチ横のセレクターをC/Rに切り替えます。
このような運用とすることで、ボーカリストとギタリストがレコーディングに参加している場合などで、セッションの最初に各々のモニターミックスを設定しておけば入れ替わる際のタイムロスをさくげんすることができます。
録音音声のシグナルパス(緑)
最後に、録音音声のシグナルパスを解説します。
このシステム図ではマイクからインターフェースへのシグナルパス以外に、MC531からインターフェースへ戻るシグナルパスがあります。
このシステムではモニタースピーカーを2セット使っているので、MC531の出力が1系統余っています。MC531にはAPIサウンドの肝となるAPI2520とカスタムトランス回路を通って出力されるAPIボタンが搭載されているので、余った出力を活用してMC531を色付けするエフェクターとしても使用できるようにしてみました。
MC531のスペック紹介記事でも触れましたが、2520を通ることで倍音が付加されて心地良い程度に中低域~中域の厚みが出てきます。ドラムなどを通してみるとAPIらしいパンチ感のある音を得られそうです。
MC531をエフェクターとして使用するのは、通常の用途外となるのでこの使い方をする時にはREC先のトラックの出力がミュートされていることを必ず確認してください。ミュートされていないと音声がループしてしまいます。何かの拍子にミュートが外れてしまう危険性もあるため、REC先のトラックの出力バスのアサインを外してどこにも出力されない状態にするのを推奨します。
まとめ
小〜中規模プロジェクトスタジオでのMC531を活用したシステム構築例をご紹介してきましたが、システム例を検討する中で、MC531を導入することでかなりフレキシブルなシステムが組めるようになる事を改めて実感しました。特に2520を通すことができるAPIボタンが搭載されていることで、空き出力チャンネルも活用できる点はかなりプラスになると思いました。
今回ご紹介した構築例を参考に、自身のワークフローに適したシステムを検討いただければと思います。
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